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金曜日、五時間目。天気は快晴、気温二〇度。座席は窓際、後ろから二番目。コンディションはある意味、最悪すぎるほどに最高。 「え〜、この位置ベクトルというのは……」 教壇では数Bの授業が展開されている。教師は「催眠術師」の異名を持つ中年の男性教師。のんびりとした喋り方で、多くの生徒を眠りの楽園へと導く神の使いだ。 ああ、今日も、戦いが始まる。 でも私は、負けないって約束したんだ。戦友のあいつと…… 「え〜、練習二一……」 授業開始から一〇分。すでに数人が倒れ始めている。教師はそんな彼らにはお構いなしに授業を進める。 ああ、日差しが暖かい……油断すると、すぐにでも夢の世界に行けそうである。すんでのところで目を開けて、首を振る。いかんいかん…… 「辺BCは……」 隣席の友人が、うつらうつらし始めた。後方からは寝息が聞こえる。 私の瞼もだんだん重くなってくる。くっ……こんな所で負けてはいられない! ……うっ。ノートに線が入った…… そうこうしてる間に、開始二五分。そろそろ、あれがやってくる。 「え〜、うちのカミさんがだな……」 そう、世間話。これが厳しいのだ。 催眠術師の魔力にかかった哀れな敗者たちが、次々に倒れていく。いつもは真面目に話を聞いている前の席の男子でさえ、今日は倒れている。ああ、なんと強大な敵! 状況確認。現在の生存者は……半分、と見た。 いや、こうしている間にも、二人犠牲になった…… 私は負けるものか。あいつと一緒に、勝利の大地を踏みしめるのだ! しかし魔力はじわじわと私の体を睡眠モードに切り替えようとしている。 私は必死になって、時計を見る。残り時間はあと一五分。あと一五分で、勝てる。 「え〜、じゃあ、教科書に戻るぞ」 魔の世間話一〇分の間に、だいぶ倒れた。この時点で、生存者は八人。まだ大丈夫…… ……はっ! 今一瞬意識が飛んだ! や、やばい! ちょっと待て。よく見たら八人のうち六人は上体起こしたまま寝てるんじゃないか! てことは……生き残ってるのは、私と、あいつだけ。 あいつは前列中央の席で、懸命にノートを取っている。 やたら見晴らしのいい、惨憺たる光景の中で、私とあいつだけが生き残った。 「練習二二だが……」 だけど……私はもう、駄目みたいだ。体がだんだん、揺れて……視界が、かすむ。 意識がなくなる、その、寸前。 あいつが……倒れた。 まるで糸が切れたかのように、ぱったりと…… ああ、なんてことだ! なんて悪夢だ! 私はあまりのショックに、残りの気力を全て使い果たして、倒れこんだ。 目の前が明るくなる。 見える、見えるよ……眠りの楽園が…… 「純子! 何やってんの! 学校遅刻するわよ!」 |