Reunion

 
坂道を滑り降りていく自転車。銀色の車体が、朝日に光る。
 乗っているのは、紺色の制服に身を包んだ、高校生くらいの少女。茶色い髪が、風に揺れる。
 自転車は坂を降りきる。長い坂道の先にあるのは、大通りとの交差点。青信号が点滅し、赤になる。少女と数人の男性が、横断歩道の前で自転車を止める。彼女らの目前を、車が通過していく。
 流れの最後に、大きなトラックが一台、通り過ぎる。荷台が視界を遮って、向こう側が見えなくなる。そのトラックが過ぎ去った後、少女は、不思議なものを見た。
 横断歩道の対岸に、小さな子供の影。黄色い帽子をかぶり、赤いランドセルを背負っている。どうやら小学一年生くらいの女の子のようだ。別に、場所としてはその子供がいても、何らおかしくない。この交差点は市内の小学校にほど近く、多くの小学生の通学路になっているからだ。しかし、彼女はその女の子の存在に疑問を感じた。今は午前六時二十分。大抵の学校の始業時間は八時半くらいだろうから、この時間に学校に行くような格好をして、交差点に立っているのは、少しおかしい気がする。
 少女が考えているうちに、目の前の信号は青になる。後ろにいた男性はさっさと自転車を走らせ、横断歩道を渡っていく。少女も少し遅れて走り出す。
 同時に、対岸にいた女の子もこちらに渡ってきていた。小さな体に、大きなランドセルが重そうである。
 少女と女の子は、横断歩道の真ん中より少し駅よりのあたりですれ違った。少女が横を見ると、女の子もこちらを見ている。一瞬、目が合う。その、瞬間。
 「久しぶり、アキちゃん」
 女の子が、少女に話し掛けた。自分の名前を呼ばれた少女はびっくりして、思わず横断歩道の真ん中で、立ちすくんでしまう。
 「十年ぶり、だね。元気? 学校は、楽しい?」
 少女は女の子の顔をじっと見た。どこかで見たことがある。どこかで……
 「思い出さない? わたしだよ、赤坂真美。おぼえてない?」
 ……見たことが、あった。今から十年前、小学一年生だったときの親友、赤坂真美に違いない。でも、彼女は……
 「ほんとうに、真美ちゃん?」
 「うん。今日はクリスマスだから、ご褒美をもらったの。アキちゃんと、少しだけ会えるように」
 少女は周りを見渡した。横断歩道のど真ん中にいるはずなのに、車のクラクションが聞こえないのはおかしいと思ったら、全ての車が止まっていた。いや、車だけでなく人も、木の枝さえ止まっている。現実には、起こりえないことが今起こっているのだ。ということは、目の前にいる、この女の子も、現実には会えるはずのない、十年前に交通事故で死んでしまった、真美ちゃん……
 「真美ちゃん……久しぶり。あたしなんかに会いに来てくれて、ほんと、ありがとう……」
 アキの言葉に、真美は笑って返す。
 「ううん。だってアキちゃんは一番の友達だから。わたしはもういかなきゃだから、これからも、がんばって」
 そう言い残して、真美は消えた。
 信号が点滅している。アキは少しだけ横断歩道の真ん中にたたずむと、前に向かって、自転車を走らせた。

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