煙草


「いつから吸っているの」という男の問いに、私は、「知らない」と言った。煙草は気が付いたときにはもう当たり前の事になっていた。ただ吸う。煙草は好きでも嫌いでもなく。ただの日常。
「心配でもしているの」、と、聞いてみる。答えはどちらでも良い。
「君が好きなら」と男は答えたので、私は吸いかけの煙草を灰皿に押し付けた。煙が上がって消える。煙の甘苦いにおいが残る。
好きでも嫌いでもない。
煙草も、目の前の男も。
というより、好き、とか、嫌い、という言葉を、一体何処に使えば良いのか、わからなかった。
わからない。
何故煙草が要るのかも。何故、今こうして男と向き合って煙草を吸っていたのかも。わからないから火を消した。そのうちまた煙が欲しくなる。けれどもそれは好きなのかどうか。男とはいずれ別れる。目の前の男が居なくなって、何か思う事があるだろうか。
「わからない」と、口に乗せてみる。「僕にもわからない」と、男が言った。
「いつかわかるかもしれない」
「でも、わからなくてもいい」
そう言って席を立った。
煙草も男も、目の前からなくなった。窓の外を男が歩いていく。
煙草には手を付けずに、窓の外を見ていた。
いつかわかるときが来るのかもしれない。でも、わからなくてもいい。
白い灰皿の上で、煙草はただ眠っていた。

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